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はじめに
RFIDや赤外線(IrDA)は、どちらも非接触で情報をやりとりする無線通信技術です。名称は聞いたことがあっても、実際に何がどう違うのか、どのように使い分ければよいのか、判断が難しいと感じる方も多いでしょう。この記事では、それぞれの技術の仕組みや特長、活用シーン、そして選定時の注意点までをわかりやすく解説します。
RFIDとは?電波を使って情報を読み取る技術
RFIDの基本構造と通信方式
RFID(Radio Frequency Identification)は、電波を利用して情報を非接触で読み取る技術です。基本的な構成は、「RFIDタグ(ICタグ)」「RFIDリーダー」「管理システム」の3要素から成り立っています。
RFIDタグは、識別情報を記録した小型のチップとアンテナを内蔵しており、対象物に貼付・内蔵して使用されます。RFIDリーダーは、このタグから発信された電波を受信し、情報を読み取って管理システムへ送信する役割を担います。通信方式は主に「パッシブ(電源なし)」「アクティブ(電源あり)」「セミアクティブ」の3タイプがあり、用途や必要な通信距離によって使い分けられます。
また、使用する周波数帯によっても特徴が異なり、HF帯(13.56MHz)は比較的近距離の読み取りに向いており、UHF帯(860~960MHz)は長距離・一括読み取りに優れています。目的に応じたタグの種類や通信方式の選定が、RFIDシステムのパフォーマンスを左右する重要なポイントです。
活用シーンと導入メリット(物流・小売・製造など)
RFIDは、物流・小売・製造・医療・図書館など、多くの業界で活用が進んでいます。たとえば物流倉庫では、入出庫時にパレット単位でタグ情報を一括取得することで、作業効率と在庫精度が大幅に向上します。
小売業では、アパレル商品のRFIDタグを活用することで、店舗での在庫確認やセルフレジでのスピード会計などに役立てられています。製造業では、工程管理や部品のトレーサビリティ強化にRFIDが活用されており、不良品対策や納期管理にも効果を発揮します。
非接触・一括読み取りというRFIDの特性は、作業時間の短縮、ヒューマンエラーの削減、リアルタイムなデータ取得による業務の可視化といった多くのメリットをもたらします。バーコードでは実現しにくかった領域でも活躍できるのが、RFIDの大きな強みです。
IrDAとは?赤外線による近距離・直進型の通信方式
IrDAの仕組みと歴史的背景
IrDA(Infrared Data Association)は、赤外線を使って機器間でデータを送受信する通信方式です。1990年代に登場し、パソコンやPDA、プリンター、携帯電話などの機器間で短距離・無線通信を可能にする手段として広く普及しました。現在のBluetoothやWi-Fiに比べて歴史は古く、当時はケーブル不要の手軽な接続手段として重宝されていました。
IrDA通信の最大の特長は、「赤外線を使うことによる直進性」と「非常に短い通信距離」にあります。基本的に送信側と受信側が「正面を向いて」いる必要があり、障害物があると通信できません。このため、1対1でのシンプルな通信や、意図しない干渉を防ぎたい場面に向いています。
通信速度は規格に依りますが最大で16Mbps程度で、限られた条件下での安定した通信が可能です。近年では利用機会が減ってきているものの、一部の分野では引き続き活用されています。
IrDAの活用シーン|医療からニッチな用途まで
現在、IrDAの代表的な活用シーンのひとつが医療分野です。たとえば、輸液ポンプや生体モニターなどの医療機器同士の通信において、赤外線を利用したデータ転送が行われています。これは、意図しない外部からのアクセスや無線干渉を避けるため、直進性・限定通信というIrDAの特性がセキュリティ上好まれるためです。
また、医療以外にも、工場の点検端末や一部の業務用装置など、外部との接続を最小限にしたい機器で採用されているケースがあります。古い設備でしか対応できない場合や、BluetoothやWi-Fiの使用が制限される環境など、ニッチながら確実な需要が存在しています。
このように、IrDAは用途が限定されているものの、特定の業務や環境では今もなお有効な選択肢です。特に、通信経路の制御が求められるシーンでは、電波ではなく「光」を使うという特性が活かされています。
RFIDとIrDAの違いを5つの軸で比較
RFIDとIrDAは、いずれも非接触で通信できる無線技術ですが、その仕組みや特性は大きく異なります。ここでは、選定時の比較ポイントとして重要な5つの観点から両者の違いを整理します。
通信方式・距離・速度の違い
RFIDは「電波(無線周波数)」を使い、数センチから数メートル、場合によっては10メートル以上の通信が可能です。周波数帯やタグの種類によって通信距離や速度に差がありますが、比較的広範囲かつ高速な通信が実現できます。
一方、IrDAは「赤外線」を使い、通信距離は数センチ〜1メートル程度。通信には明確な「直進性」が必要で、デバイス同士が正面を向いていることが前提となります。規格により通信速度は最大16Mbpsと、BluetoothやWi-Fiには劣ります。
障害物への強さと安定性
RFIDは電波を使うため、ある程度の障害物(紙や布、非金属など)を通過して通信できますが、金属や水などは干渉要因となります。一方で、UHF帯を使えば、非接触で多数のタグを一括処理することも可能です。
IrDAは赤外線の特性上、障害物があると通信できません。直進性が強く、遮蔽があると信号が届かないため、安定通信のためにはデバイス同士の位置関係に常に注意が必要です。
コスト・導入のしやすさ
IrDAは構造が比較的シンプルなため、デバイスのコストは安価に抑えられる傾向があります。また、周辺環境への影響も少ないため、限定的な運用なら導入も比較的容易です。
対してRFIDは、タグやリーダーの種類によって価格帯が大きく異なり、初期投資が必要になるケースもあります。ただし、規模や運用目的によって選択肢が多く、システムとしての柔軟性は高めです。
複数対象の処理性能(同時読み取り)
RFIDの大きな利点のひとつが「一括・同時読み取り」です。特にUHF帯のパッシブタグを用いれば、数十〜数百のタグを一度に読み取ることも可能で、業務効率の向上に直結します。
一方、IrDAは1対1の通信が基本であり、複数対象の同時処理はできません。複数台の機器と通信したい場合は、それぞれ順番に接続する必要があり、大量処理には向いていません。
セキュリティ・干渉リスクの違い
IrDAは通信範囲が極めて限定されており、赤外線が届く範囲でしかやり取りできないため、外部からの不正アクセスや無線干渉のリスクが極めて低いという特長があります。医療やセキュアな業務用途に好まれる理由のひとつです。
一方、RFIDは広い範囲で通信できる反面、通信の暗号化やタグのアクセス制御など、セキュリティ対策が必要です。とはいえ、最新のRFID機器では不正読み取りや改ざん対策が施されており、セキュアな運用も十分に可能です。
用途別で見るおすすめの選定シーン
RFIDとIrDAはいずれも無線通信技術ですが、得意とする環境や用途は大きく異なります。ここでは、業務現場における代表的な利用シーンを想定し、どちらの技術が適しているかを具体的に比較してみましょう。
一括・非接触管理にはRFIDが向いている
RFIDは複数のタグを一括で読み取れるため、「在庫管理」「入出庫記録」「貸出返却のトラッキング」など、大量のモノを一度に処理したい場面で効果を発揮します。特に物流・製造現場では、ゲート型リーダーを通過するだけで複数アイテムの情報を即座に取得でき、作業効率が飛躍的に向上します。
また、視認性のない場所でも通信できるため、段ボールの中やパレット下にあるタグも読み取れるという利点があります。タグをスキャンする手間が不要な点も、現場負荷の軽減に大きく貢献します。
短距離・対面通信にはIrDAが有効な場合も
IrDAは通信距離が短く、直線的にデバイスを向かい合わせる必要がありますが、その特性が活きる場面もあります。たとえば、医療現場での体温計や点滴ポンプなどの医療機器と電子カルテとのデータ連携、またはバーコードリーダーのような形で、ピンポイントでの対面通信が必要な用途などです。
ほかにも、業務用の携帯端末間で一時的にデータをやり取りする際、通信の秘匿性を保ちやすいIrDAが採用されることがあります。通信範囲が極めて限定的なため、第三者による傍受リスクが低い点もセキュリティ上の利点です。
どちらか迷ったら確認したい判断基準
「どちらを選ぶべきか迷う」という場合は、次のような観点で整理するとよいでしょう:
• 通信距離と精度:数メートル以上の距離や障害物越しの通信が必要 → RFID/近距離・正対が前提 → IrDA
• 対象物の数:多数のアイテムを同時に処理したい → RFID/1対1の確実な通信で十分 → IrDA
• セキュリティ性:外部干渉を避けたい → IrDA/アクセス制御を施せばRFIDも可
• 設備条件:据置リーダーやシステム連携が可能 → RFID/端末同士の簡易通信で十分 → IrDA
導入の目的と、現場に求められる精度・スピード・柔軟性に応じて、適切な技術を選定することが重要です。また、場合によっては両者を使い分ける「ハイブリッド運用」も選択肢の一つとなります。
まとめ|用途に応じて正しく選ぶのが最適解
RFIDと赤外線(IrDA)は、どちらも非接触で情報を伝達する有効な通信手段ですが、仕組みや性能、活用シーンには明確な違いがあります。用途に合った技術を選ぶことで、運用効率や精度、安全性を大きく高めることができます。
通信方式の違いを理解することが選定の第一歩
RFIDは電波を使い、遠隔から複数のタグ情報を一括で読み取れるのが特長です。一方、IrDAは赤外線による直進通信のため、近距離かつ1対1の確実なデータ伝送に向いています。これらの根本的な仕組みの違いを把握することが、導入判断の出発点になります。
導入目的・現場環境に応じた技術選びが重要
たとえば物流や在庫管理など大量・一括処理が求められる場面ではRFIDが有効であり、医療機器の設定や端末間での短距離通信など、対面・確実性が求められる場面ではIrDAが力を発揮します。また、コストや設置スペース、運用負荷なども判断材料になります。現場環境や目的に応じて、最適な技術を選定することが、長期的な運用成功につながります。