近年、ドラッグストア業界では慢性的な人手不足や煩雑な在庫管理など、現場が抱える課題が顕在化しています。こうした状況のなかで注目されているのが、RFID（Radio Frequency Identification）の活用です。RFIDは、バーコードのように一つひとつスキャンすることなく、複数の商品情報を瞬時に読み取ることができるため、省人化や業務効率化に大きな効果を発揮します。
とくにドラッグストアは、取り扱う商品数が多く、医薬品や化粧品などの管理に一定の精度が求められる業態です。RFIDを導入することで、作業の負担を軽減しながら、品質管理やトレーサビリティの強化を図ることが可能となります。ここでは、ドラッグストアにおけるRFIDの活用がどのように課題解決へつながるのかを、2つの視点から見ていきましょう。
Contents
人手不足・在庫管理…RFIDがドラッグストアの課題を解決するカギに
人手不足・働き方改革への対応
店舗運営においてスタッフの確保が困難になる中、業務の効率化は急務です。従来のバーコード管理では、棚卸や検品に多くの人手と時間がかかっていましたが、RFIDを活用すれば、商品を一括で読み取れるため作業時間が大幅に短縮されます。これにより、限られた人員でも店舗運営が成り立つようになり、働き方改革の一環としても有効です。
また、スタッフの業務負担が軽減されることで、接客など本来注力すべき業務へのリソース配分も可能になります。RFIDは、人手不足時代のドラッグストアにおいて、よりスマートで持続可能な働き方を支える技術と言えるでしょう。
医薬品・化粧品管理の高度化とトレーサビリティの重要性
医薬品や化粧品には、使用期限やロット番号などの管理が不可欠です。RFIDタグには詳細な情報を記録できるため、在庫の入れ替えや品質管理を正確に行うことができます。たとえば、期限切れ間近の商品を素早く特定して優先販売したり、リコール時に対象商品を迅速に抽出したりといった対応が可能になります。
さらに、ドラッグストアはサプライチェーン全体でのトレーサビリティが求められる業態でもあります。RFIDを導入すれば、商品がいつ、どこで、どのように流通したかを追跡しやすくなり、安全性と信頼性の向上につながります。
RFIDで変わる業務効率化のポイント
検品・棚卸業務の大幅な効率化
従来のバーコード管理では、商品ごとに1点ずつスキャンが必要で、時間と手間がかかっていました。RFIDは、非接触で複数のタグを一括読み取りできるため、検品作業のスピードが飛躍的に向上します。
たとえば、入荷時の検品作業では、箱を開けることなくタグ情報を読み取ることができ、作業時間を数分の一に短縮可能です。また、棚卸業務では、棚にある商品にRFIDリーダーをかざすだけで在庫情報を瞬時に取得できるため、従来の手作業と比べて作業時間を80％以上削減できた事例もあります。
リアルタイム在庫把握と発注精度の向上
RFIDにより、商品がどこに何個あるのかをリアルタイムで把握できるようになります。これにより、在庫の過不足を未然に防ぎ、発注ミスや欠品リスクを低減することが可能です。
さらに、販売データと連携させることで、需要予測にもとづいた自動発注システムへの展開も期待できます。特に医薬品や季節商品のように在庫の変動が大きいカテゴリにおいて、RFIDは在庫精度の向上と適正な商品供給を支える強力なツールとなります。
万引き防止・防犯対策との連携
RFIDは、万引き防止にも有効です。タグ情報をセキュリティゲートと連携させることで、未精算商品の持ち出しを検知し、アラームを鳴らす仕組みを構築できます。これにより、スタッフの目が届きにくい時間帯でも店舗全体のセキュリティレベルを向上させることができます。
また、商品ごとの移動履歴を追えるため、棚の入れ替えや商品ロスの原因分析にも活用可能です。RFIDは単なる業務効率化ツールにとどまらず、店舗全体のマネジメントを高度化するインフラとしての役割を果たします。
導入を進めるうえでの課題と現場のリアル
RFIDタグコストと商品単価とのバランス
RFID導入の初期段階で多くの企業が直面するのが、「タグコストの高さ」に関する懸念です。
とくにドラッグストアで取り扱われる商品は、単価が数百円程度の低価格なアイテムが多く、1枚数円のRFIDタグがコスト全体に占める割合が無視できません。
利益率が厳しく求められる現場では、「タグを貼ることで利益が圧迫されないか」という懸念が拭えず、導入の判断に慎重にならざるを得ないケースもあります。
この課題に対しては、タグ価格の低減や、単価の高い医薬品や化粧品から段階的に導入する方法が一つの解決策となります。
また、最近では汎用タグの価格低下も進みつつあり、RFIDの導入が現実的な選択肢となりつつあります。業務改善によるコスト削減効果を含め、全体での費用対効果を評価することが重要です。
既存システムとの統合と設備投資の壁
RFIDを本格的に運用するには、単にタグやリーダーを導入するだけでは不十分です。
店舗や本部の在庫管理システムと連携させる必要があり、既存システムとの統合には技術的・コスト的なハードルがあります。
例えば、リアルタイムで在庫情報を共有するには、RFIDリーダーで取得したデータを自動的に基幹システムへ反映させるインターフェースが必要です。
加えて、ハンディターミナルやゲート型リーダーの設置など、物理的な設備投資も必要となるため、初期費用の負担も小さくありません。
こうした壁に対しては、PoC（試験導入）で運用モデルを検証したうえで、本格導入に向けた段階的な計画を立てることが有効です。業務フローに合うソリューションの選定と、長期的視点でのコスト管理が成功の鍵となります。
店舗スタッフへの運用教育と定着化の工夫
RFIDを現場で効果的に運用するには、スタッフによる正確な取り扱いと理解が不可欠です。
しかし、新しい機器や手順の導入は、ときに現場に混乱をもたらすこともあります。
たとえば、ハンディリーダーの使い方や、タグの貼付位置、読み取り時の注意点などを理解してもらうためには、初期研修だけでなく、定期的なフォローアップも重要です。
特にパート・アルバイトが多いドラッグストアでは、マニュアル整備や分かりやすい操作ガイドの整備が求められます。
また、業務改善による「楽になった実感」を共有することで、現場でのRFID定着を促進する工夫も有効です。小さな成功体験を積み重ねることで、現場全体の意識改革へとつながっていきます。
実証実験・先行導入事例から見える可能性
検品時間の短縮と棚卸工数の削減事例
実証実験や先行導入事例では、RFIDの効果が数字として明確に示されています。
とくに注目されているのが、検品および棚卸業務にかかる時間の大幅な削減です。
あるドラッグストアチェーンでは、商品入荷時における検品作業を、RFIDリーダーによる一括読み取りに切り替えたことで、従来の8割以上の作業時間削減を実現しました。
従来は目視確認やバーコードスキャンに数時間を要していた作業が、RFID導入後は数分で完了するようになり、作業負担の軽減だけでなく、誤検品の減少にもつながっています。
このような省力化は、スタッフの業務効率を向上させるだけでなく、人手不足への対策としても有効であり、現場の生産性を底上げする手段として注目されています。
医薬品管理・トレーサビリティ精度の向上
医薬品や化粧品といった高単価商品や品質管理が求められるアイテムにおいても、RFIDは有効です。
とくにトレーサビリティの強化においては、製品単位での流通履歴をリアルタイムに追跡できる点が評価されています。
ある導入事例では、処方箋薬や要指導医薬品にRFIDタグを貼付し、店舗内の動きを記録・管理することで、誤出荷や陳列ミスを未然に防ぐ効果が確認されました。
また、リコール発生時の対象商品の特定・回収もスピーディに対応可能となり、リスクマネジメントの観点からも導入効果は大きいとされています。
消費期限管理や在庫回転の精度向上にも貢献し、適正在庫の維持と廃棄ロスの削減に役立っています。
現場からの声と導入成功のポイント
実証実験を経た現場の声として多く聞かれるのは、「想像以上に作業がラクになった」「慣れれば操作は簡単」といったポジティブな反応です。
一方で、「最初は戸惑った」「タグの貼付けに時間がかかる」といったリアルな課題感も存在します。
こうした現場のフィードバックを活かして運用改善を重ねることで、よりスムーズな導入と定着が進められています。
成功のポイントは、単に機器を導入するのではなく、現場に寄り添った設計・教育・サポート体制を整えることにあります。
PoC（試験導入）を通じて現場の課題を見える化し、段階的に改善を積み重ねる姿勢こそが、RFID導入を成功させるための鍵と言えるでしょう。
まとめ｜ドラッグストアの業務を支える次世代インフラとしてのRFID
業界特有の課題にこそ活きるRFIDの活用
ドラッグストアは、食品・日用品・医薬品・化粧品といった多岐にわたる商品を取り扱うため、在庫管理や商品管理に高度な対応が求められます。
さらに、法規制により厳格なトレーサビリティが必要な医薬品や、品質保持が重要な商品も多く、業務は複雑化しています。
こうした業界特有の課題において、RFIDは検品・棚卸の効率化にとどまらず、リアルタイムの在庫把握や誤出荷防止、万引き対策など、複数の側面で活用可能です。
単なる業務改善ツールとしてではなく、店舗運営の「インフラ」として、RFIDが果たす役割は今後ますます拡大していくと考えられます。
段階的な導入と社内理解が成功のカギ
RFIDの導入においては、一度に全店導入を目指すのではなく、まずは本部や一部のモデル店舗での運用を始め、小さく成果を積み重ねる段階的な導入が現実的です。
また、現場スタッフの理解や協力が不可欠であり、RFIDの基本的な仕組みやメリットを丁寧に共有することが、社内定着のカギとなります。
コストや設備などの初期ハードルはあるものの、それを超えた先には、業務効率とサービス品質の向上、そして持続可能な店舗運営の実現という大きなメリットがあります。
RFIDは、ドラッグストアの未来を支える次世代インフラとして、その価値を高めつつあるのです。
